サンベル法律事務所は、全国からご依頼を頂き、指導監査の対応業務を行っています。
個別指導、監査には、弁護士を同席させるべきです。まずはご相談下さい。
ここでは、患者から、健康保険組合を通して、医療費通知の日数が実際の診療日数より多いと厚生局に情報提供があり、厚生局が診療所に個別指導を実施したところ、受診した日数の水増し(付け増し請求)を医師が認め、患者調査を経て監査が実施され、付け増し請求(水増し請求)などで保険医療機関の指定取消となった実例をご紹介します。近畿厚生局の平成25年6月付けの取消の実例であり、説明のため、事案の簡略化等をしています。
なお、厚生局の個別指導、監査に臨む医師の方は、厚生局の指導監査の基本的な流れ、実施状況など記載していますので、まずはこちらのコラム
厚生局の個別指導と監査をお読みいただくことをお勧めします。
診療日数の水増し(付け増し)の不正請求での取消処分
1 監査に至った経緯
1 医療費通知を見た患者からの日数相違の情報提供
平成21年11月24日、患者から健康保険組合を通じて近畿厚生局に対し、医療費通知に記載された日数が実際の診療日数より多いこと、および一部負担金の額が実際の支払額より多いとの情報提供があった。
【コメント】
医療費通知をみた患者が、保険者に連絡し、一部負担金の金額が合わない、受診した日数が違う、受けていない治療の記載がある、といった情報提供を行い、それを端緒として、個別指導が実施されることが、少なくありません。
税務申告などの関係があることもあり、届いた医療費通知をきちんと確認している患者もいます。医療関係者などでは、診療報酬の保険請求の知識がある方もいて、そういった方が、不適切な診療報酬の請求がなされていないか、チェックするケースもあります。そういった確認・チェックの結果、金額などが合わない場合、そのまま何もしないケースももちろんあろうかと思われますが、例えば税務申告でどのように対応すればよいか確認するケースや、不適切な請求の疑義を情報提供するという見地から、保険者に連絡し相談するケースもあります。また、患者が医療機関とトラブルになった場合は、医療機関側の弱い部分を探す趣旨で医療費通知の記載をはじめ不適切な請求がないか確認・検討し、何らかの不適切な部分が発見されまたはその疑義が生じれば、(場合により事前に医療機関に通知した上で)保険者や厚生局に情報提供するケースもあると感じます。
本ケースでは経緯は不明ですが、医療機関とトラブルとなり、それを起因して情報提供に至った場合は、患者側が熱心に厚生局側の事実確認・指導監査の実施を求めているケースが多く、(具体的な情報提供の内容により)厚生局側もそれに応える場合が少なくないと思われます。特に医療機関と患者との間でトラブルなどが発生していないケースでは、同様の情報提供が複数あるか(例えば、一部負担金が合わない、といった情報提供が患者から多数あれば、いわゆる水増し請求、付け増し請求が疑われることになります。)、不適切な請求を裏付ける客観的な証拠はあるか、といった点を総合的に判断し、指導監査の実施が判断されているものと思料します。
2 個別指導での医師の日数水増しの自認
平成23年9月14日、個別指導を実施したところ、医師は、実際に診療していない日付を診療録に不実記載し、日数を付け増して水増しして診療報酬を不正に請求していたことおよび特定疾患療養管理料を保険点数の高い生活習慣病管理料に振り替えて請求していたことを認めたため、個別指導を中止した。
【コメント】
個別指導で医師が不適切な請求を認めた場合でも、必ず個別指導が中断・中止となり監査となるわけではありません。厚生局としては、不適切な請求の経緯態様、頻度、常習性、悪質性、改善可能性などを総合的に勘案し、個別指導を中断し患者調査や資料の精査などを要するか、あるいは、個別指導を終了し、今後の改善を期待し様子をみるか、判断しているものと思われます。
本ケースでは、診療日数の水増し請求、付け増し請求を医師が自認していますが、一般論として、受診日数・診療日数の水増しは、患者が来ていない日に診療を行ったことにして請求をしてしまうもので、悪質な不正請求に分類されるものと思われます。一般論としては、不正請求は、まずは、実際に行った診療行為について高額な別の診療行為に振り替えて請求したり、実際に行った診療行為に行っていない同日の診療行為を付け増して請求し、以上よりさらに大きな金額で不正請求をしようとなってはじめて、不正が露見するリスクがより高い日数の水増し請求(日数の付け増し請求)に至ると考えられるためです。少なくとも、厚生局としては、前記のロジックに基づき、日数の水増し請求(日数の付け増し請求)をしている保険医療機関については、振替請求や同日中の付け増し請求など他の不正請求を行っている可能性が十分あり厳格に対応する必要性が高いと考えているのではないかと思われます。実際、本ケースでも、個別指導の中断の段階で、医師が、診療日数の水増しに加え、特定疾患療養管理料を保険点数の高い生活習慣病管理料に振り替えて請求していたことを認めています。
3 患者調査での診療日数水増しの確認
平成23年10月21日、患者22名を患者調査の対象として選定し、調査に応じた7名のうち4名の診療日数が診療報酬明細書の日数と相違していること、および(7名のうち)5名
の患者が糖尿病でないと回答したにもかかわらず、糖尿病を主病として生活習慣病管理料が請求されていることを確認した。
【コメント】
本ケースでは、平成23年9月14日に個別指導が中断となり、その後、平成23年10月21日に患者調査が実施されており、スピーディーに患者調査が実施されていると感じます。もしかすると、個別指導の当日前の段階で、医師の自認の有無を問わず個別指導を中断し患者調査を実施する方針が、厚生局側で内部的にかたまっていたのかもしれません。
なお、本ケースでは、患者調査で患者22名が対象として選定され、調査に応じたのはうち7名とされています。このように、厚生局の患者調査では、調査に応じない患者も少なくないという印象です。なお、患者調査が実施された場合は、患者調査の実施について患者から保険医療機関側に伝わり、保険医療機関が患者調査の実施を認識できることが多いというイメージです。
4 監査への移行
以上のことから、監査要綱の第3の1および2に該当するものとして、平成24年6月6日から平成25年2月1日までの間で計6回にわたり監査を実施した。
【コメント】
本ケースでは、個別指導が中止され、その結果、個別指導の期日が1日のみで、個別指導の中断・再開がなされず、監査に至っています。通常のケースでは、個別指導が中断し、その後再開してからさらに中断し、監査に至ることが多く、その意味で、イレギュラーなケースと考えられます。
2 取消の理由と不正・不当金額
1 取消の主な理由
第一に、付増請求であり、実際に行った保険診療に行っていない保険診療を付け増して、診療報酬を不正に請求させていた。
第二に、振替請求であり、実際に行った保険診療を保険点数の高い別の診療に振り替えて、診療報酬を不正に請求していた。
第三に、保険適用外診療の保険請求であり、実際は保険適用外である診療を保険適用である診療を行ったものとして、診療報酬を不正に請求していた。
第四に、初・再診料と医学管理等の不当請求であり、算定要件を満たさない初・再診料及び医学管理等の診療報酬を不当に請求していた。
【コメント】
診療日数の水増しについては、第一の付増請求に該当します。また、特定疾患療養管理料を保険点数の高い生活習慣病管理料に振り替えて請求していたことについては、第二の振替請求に該当します。
なお、以上の第一から第四は、監査で確認されたものとなります。
2 不正・不当の金額
平成23年1月から平成23年8月までについて、レセプト258件69名分で76万210円の不正請求が、レセプト137件28名分で38万6657円の不当請求が、監査で判明しています。
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