サンベル法律事務所は、全国からご依頼を頂き、指導監査の対応業務を行っています。
個別指導、監査には、弁護士を同席させるべきです。まずはご相談下さい。
ここでは、社会保険事務局に情報提供があり、厚生局が係る病院に適時調査を実施したところ、施設基準の届出、報告に虚偽の記載が行われている疑義が濃厚となり、監査が実施され、施設基準について虚偽の届出をしていたことなどで保険医療機関の指定取消となった実例をご紹介します。近畿厚生局の平成25年6月付けの取消の実例であり、説明のため、事案の簡略化等をしています。
なお、厚生局の個別指導、監査に臨む医師の方は、厚生局の指導監査の基本的な流れ、実施状況など記載していますので、まずはこちらのコラム
厚生局の個別指導と監査をお読みいただくことをお勧めします。
施設基準の虚偽の届出・報告での不正請求による取消処分
1 監査に至った経緯
1 匿名の者からの情報提供
平成19年10月29日、平成20年7月22日、平成20年8月11日および平成20年9月10日、社会保険事務局に匿名の者から情報提供があった。
【コメント】
本ケースでは、社会保険事務局に対して、匿名の者から4回の情報提供がなされており、取消処分に至る端緒となっています。
個別指導などの厚生局の指導監査は、情報提供があれば必ず実施されるというわけではなく、その情報提供の内容や信ぴょう性などを総合的に考慮した上で、実施の判断が慎重になされているものと思われます。
2 適時調査の実施、中断
平成21年10月13日、近畿厚生局の事務所が適時調査を実施したところ、平成20年10月10日に届出された障害者施設等入院基本料の15:1に関する届出の添付書類の看護師の配置に係る内容が、実際に病棟で使用されていた書類の内容と相違していたことから、病院側に説明を求めたが、明確な回答がされなかったことから適時調査を中断した。
【コメント】
本ケースでは、匿名での情報提供は平成19年10月から平成20年9月の期間になされていますが、適時調査の実施は平成21年10月であり、情報提供から1年以上の期間が経過しています。このように、厚生局の指導監査においては、情報提供から指導監査の現実の開始まで、相当の期間がかかることが稀ではありません。
適時調査において、事前に情報提供を受けていた不正請求の疑義の点を中心に、書類等の精査を行い、その結果、障害者施設等入院基本料の15:1に関する届出の添付書類の看護師の配置に係る内容と実際の書類との相違から、適時調査の中断に至ったものと思われます。
書類上の矛盾点・つじつまが合わない点があり、それが不正請求に繋がるもので、それについて厚生局側が納得できる説明が医療機関側からなされない場合は、適時調査や個別指導の中断に至ることがあります。
手違いや単純ミスは起こり得るものであり、真実、手違いや単純ミスであれば、その旨を丁寧にきちんと説明することが重要です。ただし、そのようなミスがうっかり生じることが社会常識に照らしありそうもない場合などは、厚生局側が納得せず、中断とされてしまうことも考えられます。
3 虚偽の施設基準の届出・報告の疑義での監査
適時調査で取得した各種資料を精査したところ、夜勤を行う看護師の1人当たりの月平均夜勤時間数について、72時間を大きく超え、施設基準等の届出・報告に虚偽の記載が行われている疑義が濃厚となったため、厚生局事務所および県は、平成21年12月17日から平成24年7月20日の間、計15回(延べ20日)にわたり監査を実施した。
【コメント】
適時調査の中断から、その約2か月後に、監査が実施されています。本ケースの医療機関は病院であり、社会的な影響も診療所への監査に比し大きいことから、監査の実施は相応の根拠・相当性が求められるところと思われますが、これだけのハイペースで監査の実施に至っていることは、適時調査の実施の段階で厚生局側が既に監査を念頭においていた可能性が少なからずあろうかと思われます。
施設基準の届出、報告の虚偽記載の疑義が監査の実施の根拠となっていますが、厚生局において、係る不正の相応の裏付け証拠が既に確保できたと判断されたものと考えられます。
4 患者調査での不正請求の証言
監査に当たり平成22年1月18日から平成22年5月17日の間、21名の患者に対して調査を実施した結果、3名から無診察によるリハビリテーションを受けた旨、3名から栄養指導を受けていない旨および2名から画像診断の説明を他の医療機関で受けた旨の証言を得た。
【コメント】
患者調査が実施された場合、患者は、厚生局の職員などに、診療行為について尋ねられ、また、領収書などの関係書類の提示などを求められます。患者調査の人数は、必要な人数が実施され、実施人数に厳格な決まりはないと考えられますが、本ケースでは、21名に調査が実施されています。患者調査の結果、不正請求を示す事実が得られた場合は、内容に応じ、監査においてさらなる調査確認が実施されることになります。
なお、患者調査で不正請求の証言が得られたからといって、それのみで厚生局が不正請求を認定するものではないと考えられます。例えば、その保険医療機関に受診していないといった架空請求の証言が得られた場合は、その証言のみでは直ちに架空請求を認定せず、医療機関側の説明・回答や、受診していないことを裏付ける客観的な証拠(例えば、客観的証拠から患者が国外に出国中であることが確認でき日本にいない期間は、その患者は日本の保険医療機関の通常の受診をしていないものと考えられます。)の有無などを総合的に勘案し、判断しているものと思われます。
2 取消の理由と不正・不当金額
1 取消の主な理由
第一に、施設基準の虚偽の届出であり、一般病棟入院基本料10:1、障害者施設等入院基本料15:1および回復期リハビリテ ーション病棟入院料1の施設基準について、虚偽の届出をし、診療報酬を不正に請求していた。
第二に、無診察での疾患別リハビリテーションの不正請求であり、医師が診察することなく、疾患別リハビリテーションを行ったものについて、診療報酬を不正に請求していた。
第三に、無診察での点滴注射の不正請求であり、医師が最初の診療時の指示のみで、その後診察することなく点滴注射を行ったものについて、診療報酬を不正に請求していた。
第四に、無診察での静脈注射の不正請求であり、医師が診察することなく外来担当看護師からの連絡により静脈注射の処方を行ったものについて、診療報酬を不正に請求していた。
第五に、画像診断設備提供での不正請求であり、画像診断の設備を提供しただけであるにもかかわらず、診療報酬を不正に請求していた。
第六に、初診料と医学管理等の不当請求であり、算定要件を満たさない初診料および医学管理等の診療報酬を不当に請求していた。
【コメント】
施設基準の届出が不適切であり要件を満たしていなかった場合は、診療報酬の返還金額が膨大となることがあります。これは、虚偽の施設基準の届出を意図的に故意に行っていた場合だけではなく、ミス・誤解により過失で不適切な施設基準の届出をしていた場合も同様です。保険医療機関は、届出をしている施設基準について、届出をした際だけではなく、その要件について、常に注意しておく必要があります。
2 不正・不当の金額
平成19年10月から平成21年11月までについて、レセプト96件61名分で974万2168円の不正請求が、レセプト41件28名分で20万6141円の不当請求が、監査で判明しています。
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