サンベル法律事務所は、全国からご依頼を頂き、指導監査の対応業務を行っています。
個別指導、監査には、弁護士を同席させるべきです。まずはご相談下さい。
ここでは、匿名の情報提供で個別指導となり、無診察治療、無診察処方を認め監査に移行し、架空請求などの理由により保険医療機関の指定の取消となった実例をご紹介します。九州厚生局の令和元年5月付けの取消の実例であり、説明のため、事案の簡略化等をしています。
なお、厚生局の個別指導、監査に臨む医師の方は、厚生局の指導監査の基本的な流れ、実施状況など記載していますので、まずはこちらのコラム
厚生局の個別指導と監査をお読みいただくことをお勧めします。
医師の無診察の治療、処方の不正請求での個別指導、監査
1 監査に至った経緯
1 自己処方の不正請求の情報提供
平成28年5月27日、匿名の者から九州厚生局に対し、診療所の院長である医師が、自分で服用する薬を他人の名前を使って処方をしている旨の情報提供があった。
【コメント】
本ケースは、匿名での無診察治療(無診察処方)に関する情報提供があり、個別指導のきっかけとなっています。厚生局としては、名前を明らかにしての情報提供の方が重く扱うと考えられますが、匿名の情報提供についても、その内容の信ぴょう性や態様などに基づき、指導監査の端緒とするケースもあります。
2 個別指導での不正請求の自認
その後、個別指導を実施したところ、医師は、前記の情報提供の内容が事実である旨を認めたほか、無診察での処方箋の交付や無診察での消炎鎮痛等処置を行っていたことを認めた上で、薬剤の不正入手に係る具体的な方法や診療報酬請求の流れを述べ、次の事象を認める旨を申述した。
【コメント】
本ケースは、医師が無診察治療の不正請求を個別指導で認めています。
不適切な請求を認めた場合、必ずしも監査に移行するわけではありませんが、本ケースでは、不正の内容などを勘案の上で、監査への移行が判断されたものと思われます。
3 虚偽の処方箋の作成の自認
医師が、自身及び親族が使用するための薬剤を入手するため、親族を診察したと偽って処方箋を作成し、保険薬局を通じて薬剤を入手した。
【コメント】
親族を診察したことにして診療報酬を不正に請求するケースがあります。身内であるため不正請求が行われやすく、その点は厚生局も理解しており、個別指導などで重点的にチェックされることがあります。
4 無診察での診療報酬の不正請求の自認
上記の処方箋を作成するにあたって、診察の事実があったかのように診療録に記載し、再診料、処方せん料等の診療報酬を請求していた。
【コメント】
親族を無診察ながら診察をしたことにする不正請求のケースでは、上記のようなケースや診療報酬を得ることを目的としているケースだけではなく、クリニックの平均点を下げるために、診療をしたことにして点数の低いレセプトで請求しているケースもあります。
5 患者への無診察処方の自認
診察を行っていない患者に対し、処方箋を交付していた。
【コメント】
無診察で処方箋を交付しているケースでは、無診察にもかかわらず治療をしたとして診療報酬が請求されていることが通例と思われます。
6 無診察での消炎鎮痛等処置
診察を行っていない患者に対し、リハビリテーションを担当する従業員に消炎鎮痛等処置を行わせていた。
【コメント】
患者の来院はあることが前提とされていますが、患者の来院がないケースでは、いわゆる水増し請求となります。
7 個別指導の中止、監査の実施
これらの申述内容に係る不正請求が疑われたことから個別指導を中止し、監査要綱の第3の1及び2に該当するものとして、監査を実施した。
【コメント】
厚生局としては、無診察治療での不正請求などの態様等が悪質であると判断し、監査の実施としたものと思われます。
2 取消の理由と不正・不当金額
1 取消の主な理由
第一に、架空請求であり、実際には行っていない保険診療を行ったものとして診療報酬を不正に請求していた。
《具体的事例》
・医師の複数の親族を月に一度も診察せず、当該親族、医師及び他の親族が使用する薬剤に係る処方箋を作成し、これに基づく薬剤を受け取るとともに、再診料、外来管理加算、特定疾患療養管理料及び処方せん料等の診療報酬を請求していた。
第二に、付増請求であり、実際に行った保険診療に行っていない保険診療を付け増して、診療報酬を不正に請求していた。
《具体的事例》
・医師の複数の親族を月に一度のみ診察し、診察していない日に、当該親族、医師及び他の親族が使用する薬剤に係る処方箋を作成し、これに基づく薬剤を受け取るとともに、再診料及び処方せん料等の診療報酬を請求していた。
・医師の複数の親族を診察した日に、医師及び他の親族が使用する薬剤に係る処方箋を作成し、これに基づく薬剤を受け取るとともに、処方せん料の診療報酬を請求していた。
第三に、無診察治療での不正請求であり、保険診療と認められないものを、保険診療を行ったものとして診療報酬を不正に請求していた。
《具体的事例》
・患者が来院したものの、医師が患者を診察せずに処方箋を交付し、再診料及び処方せん料等の診療報酬を請求していた。
・患者が来院したものの、医師が患者を診察せずにリハビリテーションを担当する従業員に消炎鎮痛等処置を行わせ、再診料及び消炎鎮痛等処置等の診療報酬を請求していた。
第四に、不当請求であり、初診料について、前回の診療と明らかに同一の疾病であると推定され、再診料を算定すべきであるにもかかわらず、誤って初診料を請求していた、また、特定疾患療養管理料について、主病に対する管理内容の要点が診療録に記載されていないにもかかわらず、特定疾患療養管理料を請求していた。
【コメント】
本ケースでは、架空請求などでの診療報酬の不正な請求に加え、薬剤の不正入手を医師が自認していた背景に特殊性があります。
厚生局としては、診療報酬の金銭的な不正にとどまらず、薬剤の不正入手などが背景にある場合、健康被害なども想定されることから、自らの管轄に関する事象については、より積極的に対応することになると考えられます。
2 不正・不当の金額
平成24年3月から平成28年9月までについて、レセプト364件29名分で136万5815円の不正請求が、レセプト7件6名分で1万5413円の不当請求が、監査で確認されています。
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